無形化世界の戦略論 (7) メディアによる情報制空権
Posted by admin on 04 4 月 2009 at 03:49 pm | Tagged as: Strategy + Geopolitics
無形化世界においてはメディアは空軍(エアパワー)に相当する。エアパワーの特徴は
エアパワーは空中において運用される能力であるため、陸海における権力とは本質的に特性が異なっており、地形の制約を殆ど 受けないために世界中どこへでも迅速に展開することが可能である。つまりエアパワーはランドパワーやシーパワーと比較して速度、範囲、機動性、突破・打撃 能力が圧倒的であり、現代の軍事力の主要な構成要素であると考えられている。エアパワー@wikipedia
であり,少数精鋭の部隊が迅速に行動し,効果的に打撃を与えることが出来る。一方その特性ゆえに,長期間に渡って拠点を維持するのには不向きな兵種と言える。
無形化世界でのメディアの役割
テレビやラジオ,新聞,インターネットなどのメディアは,当初の目的である「情報伝達」の役目を超え,現在ではコマーシャルに代表される「前線支援 のための宣伝機関」としての役割が増大している。ここでいう前線とは,企業でいえばマーケティングなどの消費者争奪戦であり,国家でいえば外交問題・軍事 問題などの主導権争い(プロパガンダ)である。
この宣伝合戦において,自らの宣伝効果を高め,相手の宣伝効果を下げようとしてために考え出されたのが,視聴者に届く情報路を支配してしまえばよ い=「情報制空権」を奪取するというアイデアである。企業の例でいうと,情報制空権を有していればライバル企業の情報を遮断し,効率よく自社の製品のPR を行うことが可能となる。
この情報制空権争いは,第二次世界大戦期のナチスドイツや東西冷戦においても行われ,スポーツや映画,音楽などありとあらゆる媒体が使われた。目的 は自陣営の結束強化(ナショナリズムや方向性提示),敵陣営の残虐無比さを喧伝するためである。冷戦期においては,西側の娯楽電波が無形化されたパワーと して東側諸国の家庭にまで浸透し,東側の自壊を誘発させる結果となった。
メディアの高度とターゲット
長沼氏によれば,メディアの制空権争いには以下の二種類の高度があるという。
- 高高度:国際政治などのいわゆる「高級」なテーマ
- 低高度:新聞の三面記事や大衆芸能,スポーツなどの大衆向けの「低級」なテーマ
このうち,高高度のメディアとは,国際政治や外交などの目的を達成すべく動員されるインテリジェンスの範疇とも言えるメディアであり,政府・国家を ターゲットとしたものである。高高度メディアは政治組織の支援などの目的がはっきりしているため,視聴者の行動意欲をかき立てることが出来るように,情報 は正確に絞り込まれている。
一方低高度のメディアとは,娯楽やスポーツなどを通じて大衆の「視聴率」を奪い合うためのものであり,どれだけの人を釘付けに出来るかが焦点とな る。そのため,この低高度メディアは大衆の好みそうな情報を断片的にばらまくだけであり,その視聴者に行動意欲を湧かせることは出来ず,むしろ情報過多に よって世の中を冷笑的・不活性なものへと変えていく。
メディアによる陳腐化
メディアの世界に(6)の運動量一定則を適用するとどのような事象が推測されるのだろうか。
メディアは経済力のおよそ10倍の速度があり,ひとたびキャンペーンを打てばその圧倒的なエアパワー(情報の絨毯爆撃)によって情報の拡散と陳腐化が生じ る。そのため,本来事業を成就させるために必要な時間の1/10の時間で,支援を受けた事業は陳腐化されてしまい,事業としての魅力を喪失してしまう。
例えば,昨今のマスメディアによって取り上げられ,ブームとなった商品(ナタデココや納豆などもそう)が瞬く間にブームが去り,その商品を生産・販 売する企業が窮地に陥るという現象もこの破壊的な陳腐化によるものだろう。これが全社会的に起これば,社会の起爆剤となるべき新発見・新発明・新概念でさ え,ブームになってはあっという間に過去の遺物と見なされてしまう。そのため,それら新発明や新概念が地に足のついた普及と定着をする前に,飽きられ,社 会の活力を削ぐ一因となっている。
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