FriendFeedと梅毒の歴史を考える―実名SNSも暴徒の温床化しつつある
人 間というのは暴徒に加わりたいという衝動を感じる瞬間があるものだ。たいての人は自分が暴徒に加わったり、逆に、なんらかの理由で暴徒に迫られた経験が一 つや二つあるものだ(私も大学時代に両方を経験している)。インターネットというのはバーチャル暴徒を作りだすのにおそろしく好適な環境だ。しかもわれわ れは不吉な未来を予感させるような2つの傾向に直面しつつある。一つはリアルタイム・コミュニケーション・プラットフォームの登場によってオンライン暴徒 の群れがはるかに効率的に作り出されるようになったことだ。そしてもう一つは、そうしたバーチャル暴徒の群れに実名を晒して参加する人間が増えていること だ。オンライン・テクノロジーは社会や文化が消化し、対応できる速度をはるかに超えて発達を続けている。このままではやがてなんらかの破局が来るのは必然 だ。
この小論で、私はFriendFeedを 取り上げた。このサービスが身勝手な正義を求めて荒れ狂うバーチャル暴徒にとってもっとも住み心地がいい楽園となっているからだ。以下で理由をさらに詳し く説明するつもりだが、まず最初に私はFriendFeedを梅毒という病気と比較してみたい。15世紀に新大陸からヨーロッパに持ち込まれた当初、梅毒 は恐るべき急性の病気だった。今日では、梅毒で患者が死亡するまでには長い年月がかかるし、抗生物質によって容易に治療が可能だ。しかし1500年代には 梅毒はわずか数か月で100%が死ぬ恐ろしい病気だった。
ここで梅毒の驚くべき進化に注意しなければならない。今日、梅毒は性器の炎症から始まって、きわめて長期にわたって全身に 病変が広がっていく。治療が行われない場合、最終的に患者は死亡するが、それまでには十年以上かかるのが普通だ。しかし、1495年にヨーロッパで最初の 明確な梅毒の感染例が記録されたとき、膿疱性発疹は患者の頭から膝までを覆い、顔から肉が剥がれ落ち、わずか数か月で死をもたらした。ところが1546ま でに梅毒は今日われわれが知るような症状へと進化を遂げた。ウサギの粘液腫でも同様の現象が起きているが、梅毒の病原となるスピロヘータも、感染させる相 手を増やすために、犠牲者をあまり急に殺さないよう進化したのだ。(『銃、病原菌、鉄』 ジャレド・ダイアモンド)
つまり、梅毒は当初人をあまり速く殺し過ぎた。死んでしまった患者はもうそれ以上感染を広めることはできない。そこで病原体は犠牲者を長く生かしておくように進化した。
今日のFriendFeedは1495年の梅毒に似ている。このサービスはもっと危険性を減らすよう進化しない限り、やがて自滅するだろう。
本来こういうことは起きないはずだと思われてきた。なぜならFriendFeedは匿名掲示板ではないからだ。ほんの数年前、専門家は大量に匿名でコンテンツを生成するサービスの普及がオンライン暴徒を生むだろうと予測していた。2006年のTimeの記事はこう書いている。
個人のアイデンティティーを保持して発信するサービスに加えて、膨大な数の平凡な無名の群衆によって.コンテンツが集合的 に生成されるサービスが多数出現している。こういうサービスを好む大衆は多い。私の懸念は、こうしたサービスは火をもてあそぶようなものであり…たとえば Wikipediaだが、これは以前であれば多数の個人がそれぞれ発信していたはずの情報を、個性のない一枚岩の形で集約し、森羅万象の記述であると誇っ ている。…もう一つの例は、Diggのような自動化された群衆による情報評価システムだ。また特に気がかりなのは、ほとんどブログ管理ソフトで匿名でのブ ログ作成がきわめて容易な点だ。このデザイン上の欠陥のために暴徒化した群衆のような匿名のコメントの洪水が引き起こされている。
しかしFriendFeedのユーザーの大部分は簡単に実世界における身元が判明する。このサービスの本来の目的はユーザーが自分のブログ、写真、 各種SNS、Twitterなどのコンテンツをひとつにまとめてストリーミングできるようにするというものだった。つまり、ユーザーが誰であるか、はっき り判別できることを前提としたサービスなのだ。ところが、突然、人々は平気で実名で憎悪を口にし始めた。TechCrunchのライター、MG Sieglerはこのトレンドについて個人ブログに書いている。理由は不明だが、多くのユーザーが自分の身元を晒したままで危険な、強迫的な言辞を弄するようになった。人々はより大胆にバーチャル暴徒に参加し始めている。この精神状態は直接行動まであと一歩の危険をはらんでいる。
リアルタイム・サービスはリアルタイム暴動を誘発する危険がある
何かで腹を立てたユーザーが、匿名掲示板を飛び出して、ブログやウェブサイトで実名で怒りをぶちまけるということは過去に数知れず起きている。しか し、そういう怒りがなんらかの反響を呼ぶには、それなりに多くの人々の共感をよぶものでなければならない。もちろん、そういう例も数多くある。特に、アジアに多いようだ。たとえばこういう事件があった。中 国で起きた有名な事件だが、ある夫が妻がオンラインゲームサイトで知り合った学生と不倫しているのではないかと疑って、その学生の身元を調べてくれと訴え たケースがある。APが報道したところによると、学生はそんな事実はないと否定したが、いやがらせや脅迫のメールを多数受け取る破目になった。この自警団 的な行為はモラルに反した行為に対するもっともな怒りとして理解できないこともないが、一方でわずかな非行に対して度外れな攻撃をくわえる一種の魔女狩り に発展する危険も懸念されている。
こうした例では攻撃は何日もかかって次第に激しくなるという経過をたどっている。したがってこの場合、バーチャル自警団が被害者に何か現実に危害を加えるような事態に至る前に、そうした暴徒の怒りを鎮めるような事実を明らかにすることもできる。ところが、FriendFeedでは、特定のテーマに関する会話が集約され、ユーザーがリロードする必要もなく、画面に新しい情報が流れ続ける。事態はあっという間にコントロールできない状況に陥る危険がある。
数週間前、私はこのバーチャル暴徒のリンチに遭った。ビデオキャスト番組の中で、私がいささか不作法にLeo Laporteに対して利害の対立を明かすよう迫り、Leoがそれに切れてカンシャクを起こした。すると群衆がFriendFeedに群がって私の首を求めて騒ぎ出した。(現在、最悪のコメントは大部分が削除されている)。
こうした暴徒は、この問題の発端が誤解に基づくものだったことを知らないまま暴れていた(私はLeoが冗談を言っているものと思って繰り返しからかったが、Leoはまったく本気で怒りだしていた)。その後、Leoと私はお互いに誤解していたことを理解し、すべては笑い話となった。 われわれは2人とも謝罪し、次のポッドキャストで詳しくその話をした。しかし暴徒たちはそういった事情を全く知らないままで私を攻撃した。その間、 TechCrunchのコメント欄には私を殺すという脅迫が繰り返し書き込まれた。脅迫はメールでも行われ、実名のアカウントから、「くそ野郎、地獄に落 ちろ。さっさと死ね」というメールを送ってくるものもいた。
私は以前に「殺すぞ」という脅迫を受けたことがある。昨年のこの脅迫はかなり危険なもので、いくつかの講演をキャンセルしなければならなかったし、以来身辺の安全に気を配らざるを得なくなっている。今回の脅迫は、それほど直接的なものではなかった。
しかし、問題はこうだ。オンライン暴徒が生まれても、当初、参加者の大部分はまさか相手に直接危害を加えようなどとは思っていないだろう。しかし参 加者の数が膨大になり、集団的に興奮が高まっていけば、やがてその一部が何を始めるか分かったものではない。「携帯電話を無料で貰ったから好意的な意見を 書いているのではないのか」と誰かをからかっただけで、突然私は身の危険を感じるような事態に投げ込まれた。これはあまりにも不条理だ。
しかしFriendFeedだけを悪役にするのはおかしいという反論もあるだろう。他のサービス、特にTwitterはもっとユーザーが多いし、似たような問題を抱えている。しかしTwitterでの会話は大規模に集約化されていない。イランの革命に近い抗議運動の ような巨大な動きにでもならない限り、Twitterでは直接のフォロー関係だけで暴徒が形成されるとは考えにくい。しかしFriendFeedではすべ てのコメントが1ページに表示される。そして全員がそれを見ることができる。これははるかに暴徒を生みやすい環境だ。だから携帯電話の評価というような ニッチな話題でも、突然「殺す」という脅迫に発展してしまうのだ。
われわれはこういった事態に対して何をすべきなのか? 残念ながら、梅毒が慢性病に変化するまで、当時の医師たちが何もできなかったのと同じような 状況にあるのではないかと思う。何らかの改善を見る前に、事態ははるかに深刻化するだろう。おそらくFriendFeedが発端になると思うが、やがてオ ンライン暴徒が誰かに現実の危害を加えるという事態が起きるに違いない。中国で起きた事件の被害者の学生のように濡れ衣を着せられて攻撃されることも考え られる。そんな事態が起きれば社会は当然ながら規制を求めるだろう。主要サイトには暴徒や憎悪発言を監視し、取り締まるようなツールが設置されるようにな るだろう。近い将来、私も含めて、インターネットの自由が失われたことが嘆かれるようになりそうだ。しかし、現在のシステムは自壊しかけている。このまま やっていくことは到底できそうにない。
アップデート: 本稿執筆の時点では読んでいなかったが、ブロガーで元FriedFeedユーザーのAaron Brazellがたいへん参考になる記事を書いている。
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