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Now playing on iTunes: Ella Fitzgerald - Bewitched, Bothered and Bewildered
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自衛隊イラク派遣“違憲”判決(主文は敗訴なので一応カギ括弧を付けた)に対し、お笑いの小島よしおのマネをして「そんなの関係ねえ」と発言した、航空自衛隊の田母神俊雄(たもがみとしお)・航空幕僚長が更迭された。防衛大卒で、「昭和46年航空自衛隊。航空幕僚監部装備部長、統合幕僚学校長、航空総隊司令官などを経て、平成19年3月から航空幕僚長。60歳。福島県出身」という経歴の持ち主である。 更迭された理由は、この人が、懸賞論文で応募した内容があまりに不穏当だったから、というものである。この懸賞論文は、姉葉耐震偽装問題が発覚したとき、関連して取りざたされた「アパグループ」の企画した、第一回「真の近現代史観」懸賞論文である。受賞論文の審査には、日本のカトリック保守派の論客、渡部昇一氏がかかわっており、予想通り『正論』や『諸君!』の焼き写しのような日本無罪史観である。 私は、同氏が個人の身分でどのような論文を提出し、それが以下に笑いものになる内容であっても構わないとは思う。ただ、航空幕僚のトップの立場で、イラク派兵問題に関連し過激発言を繰り返したり、「集団的自衛権行使」を積極的に容認することは、あえて平地に乱をもたらす行為であると思う。 懸賞論文を読んだ上で新聞報道を読むと、この田母神論文が、日本の敗戦後の歴史に対してさらに「恥の上塗り」をしていると判断しないわけにはいかない。ただ、この小論文には、一部、ソ連のコミンテルンの動きに触れた「VENONA文書」に言及している部分があり、この辺りは『諸君!』の中西輝政論文あたりを参照したのではないかという点に気が付く程度である。 今日はたまたま「東京新聞」と「産経新聞」を入手して、それぞれの記事を読み比べてみた。歴史認識問題においては、対中問題、対米問題の評価を分けて行うのか、それとも当時の米中が半同盟国であったことを考慮して同時に論じるかの二種類がある。田母神論文は、中曽根康弘氏のような分割論を採らないで、一度に論じている。 この要旨は産経新聞に載っていたものである。(引用開始)■空幕長論文の要旨 1、わが国は戦前中国大陸や朝鮮半島を侵略したといわれるが、実は日本軍のこれらの国に対する駐留も、条約に基づいたものだ。日本は19世紀の後半以降、朝鮮半島や中国大陸に軍を進めたが、相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない。 2、わが国は中国で和平を追求したが、その都度、蒋介石に裏切られた。蒋介石はコミンテルンに動かされていた。わが国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者だ。 3、1928年の張作霖列車爆破事件も少なくとも日本軍がやったとは断定できなくなった。(文献によれば)コミンテルンの仕業という説が強まっている。 4、満州帝国の人口は成立当初からなぜ爆発的に増えたのか。それは満州が豊かで治安が良かったからだ。侵略といわれるような行為が行われるところに人が集まるわけはない。 5、日本が中国大陸などに侵略したため、日米戦争に突入し敗戦を迎えたといわれるが、これも今では日本を戦争に引きずり込むために、米国によって慎重に仕掛けられたわなであったことが判明している。米国もコミンテルンに動かされていた。ヴェノナファイルという米国の公式文書がある。 6、東京裁判は戦争の責任をすべて日本に押し付けようとしたものだ。そのマインドコントロールはなおも日本人を惑わせている。 7、自衛隊は領域警備もできない。集団的自衛権も行使できない。武器使用の制約が多い。このマインドコントロールから解放されない限り、わが国は自らの力で守る体制がいつになっても完成しない。 8、日本軍の軍紀が厳正だったことは多くの外国人の証言にもある。わが国が侵略国家だったというのは正にぬれぎぬだ。「産経新聞」(2008年11月1日)(貼り付け終わり) この要旨を見ると、田母神氏は自衛隊のイラク派遣にも積極的に賛成しているのもなるほどと想像できる。「そんなの関係ねえ」と言うくらいである。日本の善意は相手を喜ばせないわけはないという楽観論の持ち主である。これでは、ただのネオコン(ハード・ウィルソニアン)である。気が付いていない人もいるかも知れないので、念のためにいっておくが、あの「大東亜共栄圏」とは、要するにブッシュ大統領の打ち出した「民主化された中東地域」とロジックではまったく全く同じことである。これに気が付いたとき、私は「日本はなんて余計なことをやっちゃったんだ」と考え込んだことがある。数年前のことであるが。 さて、以下に述べるような理由で、私はこのような軍人に日本の防衛を任せておくわけにはいかないと想う。なぜなら職業軍人はもっと慎重な職人であるべきだからである。 確かに小論文の中で同氏がいうように、日本は愚かにも騙されて、中国共産党と国民党、そしてそれを背後から支援したロックフェラーの支配下にあったアメリカに騙されて、中国深く侵攻していった。それは、親米保守派でもなく、左翼でもない「真実言論派」の私の立場からすれば正しい認識である。 あの石原完爾が満州で満足していたにもかかわらず、わざわざ中国に出かけていって、国民政府の首都・南京で捕虜の大量処断を行ったり、兵士のスパイ狩りの名のもとで、中国人を殺害し、ゲリラ化させた。国際法上、言い逃れが出来ても、現地のゲリラの憎しみは高まるのは当たり前である。アメリカは、ベトナムとイラクとアフガニスタンでその憎しみを一身に受けている。 今日本がすべきことは、アメリカの「大失敗」を冷ややかに遠目で見守っていて、米国の要求を聞くフリだけすることである。要するに、専守防衛に徹すればいいのだ。 ところが、田母神氏や参議院議員の「ヒゲの隊長」(名前は忘れた)は、「かけつけ警護」などというアイデアまで考え出して、日本の自衛隊の海外派兵を実現して、いらぬ憎しみをゲリラたちから買おうとしている。 しかも、騙されたことを持って「被害者」であるとして、「騙されたから日本は悪くない。騙した方が悪い」というのは、まったく恥ずかしいと言うしかない。騙されたという事実をねじ曲げて受け入れず、反省もせず、あろうことか、仇敵だったはずのアメリカに隷従してイラクでの人足・給水活動を支援している。 イラク戦争やアフガニスタン戦争は、アメリカが勝手に始めた戦争である。日本はその「テロとの戦い」というロジックにすら従うべきではないだろう。仮に、日本がシーレーンの安全に貢献したいのであれば、国連決議を出させて、「国際警察活動の枠組み」で自衛官を派遣すればいいだけの話だ。アフガニスタンに自衛隊を本土派遣するなどは、本来筋違いの話である。 今の特措法はその辺を曖昧にしている。日本は、国連の枠組みに入ってようやく参加する、それも如何にも嫌々参加して義理を果たしているという位がちょうど良い。これは、国連至上主義とは全然違う。ところが、日本の保守派や政治家は、何か大きな勘違いをして、自分達がアングロアメリカンや中国のような「帝国」と同格であると考えている。日本はそのようなものではないし、そのようなものに成ろうとする必要も全くない。 集団的自衛権の行使を容認すれば、次々と自衛隊を派遣するように仕組まれて、ソマリアの紛争地帯でゲリラ戦に巻き込まれたり、中央アジアでNATO軍の片棒を担がされたりするだけだ。 日本はトヨタや松下電器などによって形成されている「商人国家」であり、それを保証するシーレーンの警護くらいは参加しても良いが、大陸に軍隊(自衛隊)を送っては成らない。 東京新聞で憲法学者の小林節氏が良いことを書いている。私は、小林氏の言論を普段はとくに評価しているわけではないが、田母神論文への批評としてはこれがいちばん優れている。 「諸国に仕掛けられた戦争だったとしても、出て行って勝とうとしたのも事実で、負けた今となって『はめられた』と言っても仕方がない」(11月1日「東京新聞」)--そう、騙される方も悪いのである。 あの戦争に突入する中で、騙された中での筆頭は、山本五十六元帥だろう。米内光政海軍大臣も入るかも知れない。山本元帥は若い頃、アメリカに何度も行っており、石油業者とも知り合っており、その人脈を信頼して、早期講和を狙っていたのだろう。だから、「二、三年は暴れてみせる」といったのである。 日本を大国との協調路線に引き戻すために、山本や米内が米国と内通して打った、「敗戦革命」の存在を指摘する論者(新野哲也氏など)すらいる。また、中川八洋氏の最近の研究では、米内光政、近衛文麿周辺のブレーンに共産主義者がいたらしいことも分かっている。 確かに日本が国際的な謀略の渦の中に巻き込まれて身ぐるみはがされた、というのは事実だろう。だとしても、その事実をもって、日本は被害者であり、悪くないというのは、恥の上塗りである。そのような指導者が率いる自衛隊は危険でしょうがない、と思うのは私だけだろうか。 ゆえに、今回の防衛庁の判断はまことに妥当なものである。
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