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2009年1月10日土曜日

死の省察」アウグスティヌスは、ペトラルカに「死へと十分に深くおりてゆくように」諭す。「死に深くおりる」とは、文字通り死を直視することである。死にあえぐ人のからだをまじまじと思いに刻み込む。




詩人ペトラルカが、40歳の頃に今の言葉でいう「中年危機」を迎えたときに、個人的に取っていたノートがあった。彼が敬愛した古代の哲学者のアウグスティヌスをして自分を詰問させるという、厳しい形式の自己省察がつづられたもので、これが「わが秘密」と名づけられていたノートだった。ノートといっても、キケロを中心とするラテン哲学とヴェルギリウスなどの文学の精髄を盛り込んだ、知的に完成されたもので、訳者によると、散文としてはペトラルカの最高のものとのこと。 中年の学者が読むのにとてもいい章がたくさんあって(笑)、「うつ病」の章もいいし(パノフスキーらも着目している重要な記述である)、「野心」の章もいいけれども、「死の省察」という生々しい章があって、これはこれまで気に留めたことがなかった章だった。アウグスティヌスは、ペトラルカに「死へと十分に深くおりてゆくように」諭す。「死に深くおりる」とは、文字通り死を直視することである。死にあえぐ人のからだをまじまじと思いに刻み込む。そのじっとりと脂汗をかいたからだ、すでに冷たくなっている手足、こわばって土気色をした額、こけた頬、かさかさにひからびた口蓋、全身から発する汚臭、そして意識を失った顔つき。これらの生々しい死の形象を心に刻み込み、そしてその心象が引き起こす恐怖や絶望と向き合うことから、哲学と宗教が始まるという。
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