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2009年1月21日水曜日

唯ある美しいカツフヱーの一間に、イスパニヤの美人がカスタニヱツト打鳴らす乱舞を眺め、短夜の明くるのをも打忘れて居た。




腐 肉  シャアル・ボオドレェル
 
わが魂などか忘れん、涼しき夏の
晴れし朝(あした)に見たりしものを。
小径(こみち)の角(かど)、砂利を褥(しとね)に
みにくき屍(しかばね)。
 
毒に蒸されて血は燃ゆる
淫婦の如く脚(あし)空ざまに投出(なげいだ)し
此れ見よがしと心憎くも
汗かく腹をひろげたり。
 
照付(てりつ)くる日の光自然を肥(こや)す
百倍のやしなひに
凡てを自然に返すべく
この屍(しかばね)を焼かんとす。
 
青空は麗しき脊髄を
咲く花かとも眺むれば、
烈しき悪臭野草(のぐさ)の上に
人の呼吸(いき)をも止(とゞ)むべし。
 
青蠅の群(むれ)翼を鳴らす腐りし腹より
蛆蟲(うじむし)の黒きかたまり湧出でて、
濃き膿(うみ)の如くどろどろと
生ける襤褸(らんる)をつたひて流る。
 
此等(これら)のもの凡(すべ)て寄せては返す波にして、
鳴るや、響くや、揺(ゆら)めくや。
吹く風に五体はふくらみ
生き肥(こゆ)るかと疑(あやし)まる。
 
流るゝ水また風に似て
天地(てんち)怪しき楽(がく)をかなで、
節(ふし)づく動揺(うごき)に篩(ふるひ)の中なる
穀物の粒の如くに舞狂へば、
 
忘られし絵絹(ゑぎぬ)の面(おも)に
ためらひ描く輪郭の、
絵師は唯(た)だ記憶をたどり筆をとる、
形は消えし夢なれや。
 
巌(いは)の彼方(かなた)に恐るゝ牝犬(めいぬ)。
いらだつ眼(まなこ)に人をうかゞひ、
残せし肉を屍(しかばね)より
再び噛まんと待構(まちかま)ふ。
 
この不浄この腐敗にも似たらずや、
されど時として君も亦(また)、
わが眼(め)の星よ、わが性(せい)の日の光。
君等、わが天使、わが情熱よ。
 
さなり形體(けいたい)の美よ、そもまた此(かく)の如(ごと)けん。
終焉の斎戒果てて、
肥えし野草(のぐさ)のかげに君は逝(ゆ)き
白骨の中(うち)に苔むさば、其の時に、
 
あゝ美しき形體よ。接吻(くちづけ)に、
君をば噛まん地蟲(ぢむし)に語れ。
分解されしわが愛の清き本質(まこと)と形とを
われは長くも保(たも)ちたりしと。
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