2009年12月14日月曜日
聖人は死んで鬼となってでも后を犯すという執念を持って死に、その通りに鬼となる。裸の体、おどろの髪、黒い肌、大きな口に牙という、お決まりの鬼の形をなった聖人は、后のつぼねにあらわれ、術を使って后をたぶらかし、后に愛欲の心を持たしめ、二人は几帳の中でともに寝る
「天狗に狂った染殿の后の話」として訳されているもの(巻廿第七話)で、文徳天皇の宮廷がヒステリーとエロトマニアに蹂躙されるという話である。
「染殿の后」は文徳天皇の后で、藤原良房の娘であった。彼女は日ごろ「もののけ」にわずらわされていて、大和の金剛山の聖人を召して、后の体についた悪霊を侍女の体に移動した後、それを追い出すことができた。その侍女は、まるでシャルコーのヒステリー患者のように体を硬直させて弧を描いたようになっていたことが目に浮かぶような記述になっている。
しかし、その聖人が、回復した后に癒しがたい愛欲を持つようになってしまった。后が、夏の夕の几帳のとばりの前で、薄物の単衣ばかりでいたのを見たときに、その美しい姿に聖人の心はしびれ、愛欲にくるって后を犯そうとする。その企ては妨げられるが、後に聖人は死んで鬼となってでも后を犯すという執念を持って死に、その通りに鬼となる。裸の体、おどろの髪、黒い肌、大きな口に牙という、お決まりの鬼の形をなった聖人は、后のつぼねにあらわれ、術を使って后をたぶらかし、后に愛欲の心を持たしめ、二人は几帳の中でともに寝る。そして、ついには、鬼と后は、人々の見ている目の前で、目を覆うようなことをあからさまにするようになったという。
この迫力がある話は、超自然の存在が出てきて、ヒステリーとエロトマニアの集団発生が起きるという内容である。どれと特定できないが、近世の悪魔つきの話にもありそうだし、『ドラキュラ』の比較的新しい映画(ウィノナ・ライダーが出ていた)も、幸福な家庭がエロトマニアで破壊されるというエピソードがあった。
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